THE BEST TWO, NOT ONE
究極を求め、結局2つの専用レザーを
創るしかなかった。
レザーには命が宿る。
この天から授かったマテリアルは本当に素晴らしいが、ときには気難しく意地悪だ。レザーは気が遠くなるほど数が存在する。ROMAN BLACKの製作にあたり、最も重要でかつ試行錯誤を繰り返したのがこのレザー選びだった。しかし、数多くのレザーのなかには結局HYODが求めるものはなかった。そこで優秀なタンナーの協力を得てROMAN BLACK専用レザーを作ることにした。しかしこの決断により多くの時間と労力を費やすことになる。デザイン、着心地、運動性、耐久性、耐光性などを含め、様々な必要条件を満たすレザーを創り出すことはなかなか容易ではなかった。レザー単体(つまり平面・2次元)では素晴らしいのに、縫製(立体・3次元)してみると、スタイルがしっくりこなかったり、表面の風合いが描いていたイメージと違った感じになったりするものもあった。縫って立体になったとき、平面ではわからないレザーの性質が出ることもある。例えば縫い目付近の急激に曲げられた部分にシボ(レザー本体が元々持つ表面が持つ細かいシワのような凹凸)が出てしまったり……。
そして企画・試作・実走を繰り返して約10年間……最終的にでき上がったのが、今回採用したバロンレザーとイフリートレザーだった。
レザーが2種類になった理由。
2つの異なるタイプのレザージャケットをどうしても作りたかったからだ。1つ目は、伝統的なハリのあるレザージャケットだ(CLASSICシリーズがそうだ)。ハードでワイルドなイメージは、レザージャケットの持つ大きな魅力でもある。これを実現するために選んだのがバロンレザーだ。種類はステアレザー(生後3~6ヵ月で食用のため去勢された雄牛で、2歳以上の成牛皮を加工)で、去勢されていない雄牛よりもしなやかで、同時に丈夫なのが特徴だ。クロム鞣しで加工され、革厚は1.4㎜とした。この革厚はHYODロードレース用レザースーツとほぼ同じだ。仕上がりは、美しいツヤにこだわった。このバロンレザーで製作するとコシとハリがあり、着たときに伝統的なレザージャケットが持つ美しいスタイルを表現できる。このレザーは厚みやハリがありながらもしなやかさも兼ね備えるので、HYODがROMAN BLACK専用に開発したパターン(3D立体だ)の採用もあって、ライディングしやすさ、動きやすさ、軽さは見た目からは想像できないほど良い。
圧倒的なしなやかさ、着心地の軽さ、上品さ。
一方2つ目のイフリートレザーは、ホルスタインレザー(文字通り乳牛だ)で、クロム鞣しで加工してある。革厚は1.2㎜とバロンレザーよりもやや薄い。仕上げとなる顔料の吹き付けは極薄く、光沢もバロンレザーが100%だとしたら70%半艶仕上げといった感じになっている。ただし顔料が薄いので、長距離ツーリングで使うような充分な耐候性は期待できないし、レザー表面の表情(シボ)はそのまま表れる。原皮から毛抜きした段階で、レザーの個性ともいえるシボはわかり、これは1枚1枚異なる。この中からROMAN BLACK用は美しい表情を持ち、かつ均一化したものが厳選される(希少なマテリアルだ)。さらに最終工程でバタ振り作業(レザーをそれこそバタバタと振る工程)も施す。狙いはこれまでのレザージャケットにない圧倒的なしなやかさ、着心地の軽さ、上品さだ。ジャケットのスタイルは、優しい上品なラインを見せる。レザージャケットは重いという概念は、これにはまったく当てはまらない(アンチレザージャケット派にも、ぜひ試着していただきたい)。
そしてバロンレザーもイフリートレザーもウォータープルーフ処理を施してある。鞣し途中でフッ素加工する。もちろんレインウエアいらずではないが、撥水性が高く、濡れた後で乾いたときに変質しにくい特性を持っている。表面にフッ素加工したレザーもテストしたが、これだと撥水性をそう長く維持できなかったので手間もコストもかかるこの方法を取った。
ROMAN BLACKのレザーは、究極でも最高でもないかもしれない。世界にはそれほど多くのレザーが存在しこの先まだまだ素晴らしいレザーが生まれるだろう。もちろんHYODはさらに開発を重ねていくつもりだ。けれども、HYODがROMAN BLACKのために選んだバロンレザーとイフリートレザーは現時点で最良だと、HYODは確信している。
BARONG LEATHERBARONG LEATHER (バロンレザー)
トラディショナルな風合いのなかにも凛とした佇まいをみせるオリジナルレザー。表面の艶やかなきらめき、時間をかけて身体に馴染ませていくコシとハリの強さが特徴です。
IFRIT LEATHERIFRIT LEATHER (イフリートレザー)
輝きを抑えた柔らかくしなやかな風合いのオリジナルレザー。包み込まれるような上質で軽い着用感を生み出します。