INVARIACE革の不変性

革の不変性。
その探求と心。

太古の人類が生きのびるために見つけたこの奇跡のマテリアルは、ライダーに大いなる喜びと安全をもたらしてくれる。レザーには命と心が宿る。その理由は、素材からプロダクツの完成までを見ればわかる。そして、レザーの本質とは何かを、ライダーも作り手も、知らず知らずのうちに感じ取っているに違いない。

レザーを着ると気持ちが引き締まるのはなぜだろう。

たぶん、この感覚には多くの人が共感してくれると思う。とくに長年使って愛着があるレザージャケット、レザーパンツ、フットウエアだとさらにその感覚は明確になる。テキスタイル製でも良質なライディングウエアはたくさんあり、愛着が湧いてくるものも多くある。でも、出発前に、あの特有の匂いがするレザージャケットに袖を通し、フロントファスナーを上げたときの感覚とはちょっと違う。

レザーを使った究極のスポーツライディングウエアはレザースーツ(レーシングスーツ)だ。ただ、これを着る状況はレーストラックなど日常生活とはかなり異なるから気分も感覚も違って当然かもしれない(アドレナリンが出て高揚感は独特だ)。でも、やっぱりファスナーを上げてファスナー止めのタブをしっかり押し付けると気合いが入る。このスイッチが入る感覚は世界のトップライダーでもサーキット走行会を走るサンデーライダーも同じだろう。

こんな気持ちにさせるレザーとはいったい何なのだろう。
安全性とか防風性とかファッション性とか、レザーというマテリアルとレザーで出来たプロダクツが持っている特徴はモーターサイクルに乗る人間にとってとてもありがたいものが多い。しっかり身体を守ってくれるという安心感があって、そして身体も心もビシッと引き締まるのだ。これだけ科学が進歩しても、ロードレース用のスーツは伝統的なレザー製だ。これほど引き裂きにも擦れにも強く、防風性に優れ、しかも人間の身体に馴染むマテリアルが、化学合成繊維も含め地球上では天然レザー以外には存在しないからなのだが。

レザーという伝統あるマテリアル。

でも、それだけなのだろうか。
レザーという伝統あるマテリアルはHYODにとって欠くことができないし、ライディングウエア作りの“原点”となるものだ。

そして、このマテリアルは自然からの貴重な贈り物であることを忘れてはいけない。少しばかり人間=人類が、贅沢をするであるとか、趣味を楽しむという基本的な衣食住以外に歓びを見つけてしまったことが、レザーとその加工をここまで進化させてきた。そこには忘れてしまいたいような人間のエゴが起こした間違いや悲劇もあった。それでも今のところ、レザーは人間にとって無くてはならないマテリアルであり続けている。

命と、クラフトマンたちが心を込めて費やした途方もない時間がレザーのプロダクツには宿っている。だから、素材からプロダクツが完成に至るまでの軌跡を少したどってみるのも悪くない。そうすれば、このマテリアルとそのプロダクツへの愛情がより強くなると思うのだ。

ところで人間=人類の起源はいつなのか。様々な研究や新たな化石などの発掘から、その説は刻々と変わってきている。ゴリラやチンパンジーも賢く、簡単な道具を使うことが確認されているけれど、人類=ヒトが彼らと違うのは直立2足歩行することだろう。コミュニケーションに複雑な言語を使い(その言語形態も地域で様々だ)、ある規律の元に集団で生活したり、ただそこにある物を食べるのではなく、知恵と技術と道具を使って効率良く狩猟したり、さらに食物を飼育したり栽培したりと他の動物とはまったく異なる生活を営むことを覚えた。

皮の歴史は人類の歴史。

食物連鎖は、人類が動物の飼育や植物の栽培をしない頃は自然の成り行き通りだった。ライオンが狩りをしてシマウマを食するのと同じで、人類も道具は使ったものの動物を狩りして食していただけだ。

人類が賢かったのは食した動物を隅から隅まで無駄にせず利用したことだ。骨は武器や道具に加工して使い、皮は衣服や居住に使った。

皮は人類が登場したとされる600万年前から700万万年前まで、地球規模でいえばつい最近まで毛付きで利用されてきた。それが200万年前頃、旧石器時代に人類は皮から毛を抜く技術を発見し、“皮”から“革”が誕生した。これは現在の鞣し(なめし)加工の原点で、この辺から人類にとって皮や革は生活を豊かに快適にするマテリアルとなった。実際、旧石器時代の物で、毛抜きに使った道具が発見されている。

その頃の鞣し方法は、
①樹木などを焼いてその煙でいぶす
②動物の脳しょう(脳など満たしている液)を皮に振りかける
③人間の唾を使う
などだったという。生皮から毛を抜き、腐らずカビないようにする化学的加工だ(鞣しは人類初の化学加工だともいわれている)。植物、鉱物、動物から得た液体(樹液や脂など)を使って鞣しは進化していった。植物タンニン鞣しは現在でも伝統的な手法として継承されている。

鞣し技術を発明する以前から、人類は寒さを防ぎ、身体を保護する目的で皮を使っていて、衣服以外に住居にも皮は必要不可欠になっていた。それが皮から毛を除去する技術を身に付けたことで、動物の皮と革は、人類にとって飛躍的に便利で有用なマテリアルになったと言っていい。

重要なのは食した動物を利用するという点だ。これさえ守っていれば人類の歴史で汚点となるような争いは本当に少なかったはずだ。捕獲した動物の肉を食べ、残った皮を利用する。本当に無駄がない。貴重な資源をありがたく使うのだ。

狩りは重労働でありながら、代価が必ず保証されているものではない。ゼロの日もある。でも、生きるためには何としても獲物を捕らえなければならない。そしてせっかく捕らえたのだから、隅から隅まで利用したいと人類の賢い頭脳は考えたのだろう。もっと便利に出来なかったことを可能する物はないのかなど、疑問や欲が道具を作り出し、それまでは捨てるだけだった残り物を利用するという発想を生んだ(これは現代でも同じことだ)。

皮と革の歴史。

ところが人類は衣食住に贅沢という欲を覚えてしまった。文明の発展には常に功罪が伴う。争いもあり、自然も破壊する。それに気が付くにはさすがに賢い人類も時間がかかってしまった(元来の賢さが欲によって忘れ去られたり、変質するからだ)。食さずに贅沢品のために絶滅させてしまったり、絶滅が危惧される動物はとても多い。アメリカ合衆国建国以前の17世紀半ばに起きた“ビーバー戦争”は、皮の歴史において悲惨な出来事のひとつだ。知っての通りネイティブアメリカン(アメリカ先住民・インディアン)のイロコイ族とフランス植民地軍との間で起きた戦争だ。戦争の要因のひとつにヨーロッパで大いに売れた毛皮(とくにビーバーのだ)の独占という利権があった。これにはフランスのライバル、イギリスがイロコイ族を炊き付けたこともあり、先住民側にも新しい利益と部族間の抗争もからんで、北米でのインディアン戦争で最も血に塗られた残虐な戦いになってしまった。

現在は1973年に採択されたワシントン条約で、絶滅危惧種を保護する目的で輸入や取り引きが禁止されている動物・その皮・毛皮を使った製品はとても多い。たとえばアメリカワニ、ニシキヘビの皮を使ったハンドバック・ベルトやゾウの象牙製品などがそうだ。まず食する目的(それも生活のための。贅沢な食事をするためではなく)で捕獲し、食した残りを使うというのが本来の皮の利用の方法なのだが、欲に駆られて間違った方向に突っ走ると、捕獲する動物ばかりか人間を殺戮することになるから恐ろしい。

ネイティブアメリカンは自然と動物を敬い、独特の文化を持っていた。乱獲は決してしなかった。文明人がもたらした報酬、銃、酒が民族の静かな暮らしと伝統の文化を壊したのは明白だった。

ところで彼らネイティブアメリカンは皮や革を扱う名人で、その名残は現代製品にも多く見られる。そのひとつが靴のモカシンだ。独特の外縫いの製法はデザインが良く、モカシントゥのワークブーツやシューズは現代でも定番で、彼らのオリジナルデザインに近いインディアンモカシンも多くある。アパッチ族のモカシンは底が鹿皮(丈夫な生皮)で、これだと岩などゴツゴツした上でも痛くなく、かつ足音がしないという(狩猟や戦いの場では有利だ)。保温や保護だけではない生き伸びるための知恵とデザインがある。

ところで彼らネイティブアメリカンは皮や革を扱う名人で、その名残は現代製品にも多く見られる。そのひとつが靴のモカシンだ。独特の外縫いの製法はデザインが良く、モカシントゥのワークブーツやシューズは現代でも定番で、彼らのオリジナルデザインに近いインディアンモカシンも多くある。アパッチ族のモカシンは底が鹿皮(丈夫な生皮)で、これだと岩などゴツゴツした上でも痛くなく、かつ足音がしないという(狩猟や戦いの場では有利だ)。保温や保護だけではない生き伸びるための知恵とデザインがある。

デザインでいえば、彼らの使う皮や革はブラウン系が多いけれど、そこにターコイズなどの鮮やかな装飾品が合わされると実に美しくバランスしている。
ちなみにアパッチとかナバホという族名は白人が付けたもので、アリゾナでターコイズのインディアンジュエリーを売っているナバホの女性に「それはイングリッシュ。ナバホは私たちの言葉ではDiné=ディネよ」と言われたことがある。ナバホはモンゴロイド系で、日本人にとっては顔立ちはどこか親近感が沸く雰囲気がある。その女性も見事なレザー(鹿革だろうか)のジャケットを着ていた(ボトムは白人がゴールドラッシュの頃、発明したブルージーンズだったけれど)。アメリカ西部開拓=ワイルドウェストはたしかに多くの罪を伴ったけれども、ネイティブアメリカンの皮や革、そしてそのプロダクツ(オリジナルは売り物ではないから商品ではないが)を知ったことは、現代人にとって大きな財産になっていると思う。

現在HYODで扱う革は牛のものがほとんどだ。レザースーツの極限られた仕様(GPライダー用など)では、軽量なカンガルー革(金属ならチタンみたいな感じだ)を使うメーカーもあるが、HYOD製は契約ライダー用も市販用もすべて牛革だ。また、一般のレザージャケットには馬革製もあるけれど、HYOD製はジャケットもパンツも今のところ牛革だ。もちろん牛革にもいろいろあり、より動きやすく、軽くを求めて新しいレザーを実戦テストしている。

ただ、HYODでも牛革以外のレザーを限定的に使うことはあって、その一例がグローブの一部に使う羊革ベースのPittards=ピタードだ。この特殊加工されたレザーはピタード社製のもので、同社は1826年にイギリスで創業したレザーメーカーだ。汗、汚れ、雨水などを吸いにくく加工したレザーで、しかも洗えて、洗った後もしなやかさを失わないのでグローブなどには最適なマテリアルだ。HYOD製グローブの他にもゴルフ用グローブ、フットウエア、馬具などに使われている。

HYOD製でも一般的な製品でも、レザーの主役はなぜ牛革なのか。その答えは明確だ。牛革に使う牛のほとんどが肉用もしくは乳牛で、食した後の皮を使う。そして牛肉や乳製品の消費は日本、北米、オーストラリア、ヨーロッパで非常に多い。つまり、それだけ牛が多いから牛革がたくさん生産され、当然手に入りやすくコストも比較的高くない(安くはないけれど)。これは一般的なプロダクツとして売ることができる価格に収まるということを意味し、プロダクツとしてはとても重要なことだ(HYOD製品は高級装飾品ではないから)。

もちろん牛革を使うのは、ライダーの身体を守るのに必要な強度・防風性が高く、しかも着やすいという優れた特性を持っているからだ。少し不思議だが、食卓に並ぶ牛肉とHYODのレザー製品は、もしかしたら同じ1頭からのものかもしれないのだ(グロテスクに考えないでほしいが)。

200万年前と違って、それらの牛は野生動物ではなく肉用や牛乳のために飼育したもので、初めから人間が目的を持って生産する資源だ。もちろん生物の資源であるから、それを利用する感謝の念がないと殺戮と変わらなくなってしまうし、皮も革も生きていた動物がいるからこその自然からの恵み。少しも無駄にはできないということだ。牛以外には馬、羊、鹿などがレザーに使われるが、レザーに使うためだけにこれらの動物を捕獲したり飼育したりすることは普通ない。つまり、基本は食用で残った皮をレザーにするのが現在のやり方だ。そうして人間は革=レザーで衣服、靴、鞄、椅子、馬具、防具などを作ってきたのだ。

毛皮は毛付きの皮で、もともと毛のない動物の皮はスキン、皮を毛抜きして鞣したものがレザー=革だ。どれも動物の皮のままでは腐るし臭いもする。衣服などに利用するマテリアルにするには、何等かの加工が必要になる。皮の主成分はタンパク質=コラーゲン繊維で、これを結合・固定・安定化さえることで、腐らずしかも乾燥しにくく、さらに強度、硬さ、しなやかさ、厚さ、色などを調整し、使いやすい革=レザーにする。

鞣しにはクロム鞣し、植物タンニン鞣し、油鞣しなどがあって、それぞれでき上った革の特徴がはっきりしている。圧倒的に多いのはクロム鞣しで、大量生産向きだ。風合い、しなやかさ、色などを調整しやすいため、本当に様々なレザーができる。HYODのレザースーツ、レザージャケット&パンツはほとんどがクロム鞣しの牛革だ。

一方植物タンニン鞣しは伝統的な手法で、植物から抽出したタンニンを使う(赤ワインや緑茶の渋みの成分だ)。この手法は一般的には25~90日と時間がかかる(場合によっては1年)。レザーの特徴は、クロム鞣しがしなやかさ、タンニン鞣しが堅牢で、厚さは調整出来るけれどタンニン鞣しの方が厚いものが多い。タンニン鞣しのレザーは靴、鞄などに使い、クロム鞣しの方は、色(着色)も豊富でウエアなど用途は非常に多い。また、タンニン鞣しのレザーは、一般的に色の経年変化が起こりやすい。

ROMAN BLACKでは、専用の2種類のレザーを作った。

油鞣しは動物の脂に漬けて鞣す製法で、代表的なのがセーム革だ。また、油鞣しと呼ばれるものの製法がまったく異なるのが姫路白鞣しだ。この白鞣しは菜種脂を使う古典的な製法で、1000年以上の歴史を持つ。独特の白さからこの名で呼ばれる。

ところで、ROMAN BLACKでは長年の開発・テストの結果、既存のレザーではなく専用の2種類のレザーを作った。これはどちらもクロム鞣しの牛革だ。 鞣しを行う専門家・工場はタンナーと呼ばれる。鞣しは英語では“tan”で、この作業を行う人が“tanner”ということだ。海外で有名なタンナーだと、アメリカのHORWEEN(ホーウィン)社がある。1905年創業の老練レザーメーカーで、ここのコードヴァンは革のダイヤモンドと呼ばれるほどで、高級な靴や財布などに使われる。コードヴァンは農耕馬のお尻の皮を加工したレザー(競走馬とかではダメらしい)なので、生産量が本当に限られている。もちろん他の部位の皮も使われるから資源を無駄にはしていない。

日本のタンナーには地域性がある。扱う革(牛、馬、鹿など)によっても違うが、昔から兵庫県西部には大小のタンナーが集中して存在し、さらに特定の地域に集まっている。鞣しの工程で多くの良質な水を使うことが特定地域への集中化のひとつの要因で、同じような工場が集まる工業地帯のようなものだ。また、その地域で専用の排水処理場を持つことも集まる要因だ(地域の工場が共同で使う)。

水に関してタンナーは「水の質で、出来たレザーの特徴が出ます。ミネラルウォーター、ワイン、お酒と同じです。硬水なら硬めのレザーが出来、軟水ならしなやかなレザーといった感じです。水は地下水ですね」と言う。やはり天然資源の特性が現れるのだ。世界的に見てもレザーとそのプロダクツには地域性が出ている。馬具、鞄、靴、財布、ベルト、衣服などにレザーは広く用いられてきたけれど、国や地域の一般的なイメージと、出来上がったプロダクツは、やっぱり重なる。イギリスの物はトラディショナルで、フランスの物はお洒落で、イタリアの物はセンスの中にクラフトマンの技が生きている。アメリカの物はかなりイギリスに近いけれども実用的で、どこか力強さを感じる。日本の物は、誠実さ、丁寧さ、繊細さがある。生産されるレザーの特性にもプロダクツは左右されるから、地域性は出て当然だ。一般衣料やプロダクツも、同じようなお国柄や地域性の傾向があるのはもうおわかりだろう。

鞣しの作業は、いろいろな意味で辛く重労働でもあり、作業工程も非常に多く時間と手間がかかる。ここは作業現場にいけばわかる(本当にここまで大変なのかと)。だから、出来上がったレザーは、生き物と天然の水を利用しているという他に、加工にかかる手間と人々の苦労も加わっているから、本当に大切に使わなければならない。偶然、天から降ってきた物でも、そこに自然にあった物でもない。尊い命と労力が生んだマテリアル。プロダクツにする過程でも、プロダクツとなってからも、使う人間はこのことを忘れてはいけないと思う。

一般的な皮から革への加工過程を簡単に追ってみよう。まず、原皮。これは毛も血も付いた皮で、メインとなる牛皮は国産も輸入物もある。国産は一毛(ひとけ。肉用)やホルスタイン(乳牛。去勢牛など)などで、海外製の輸入先は北米(ステア=成牛皮・去勢牛など)、オーストラリア、ブラジル、バングラディッシュなど様々。タンナーは、商社を通して世界中から原皮を手に入れている。

原皮は外側から表皮(毛の付いた部分)、真皮層(タンパク質=コラーゲンが主成分)、皮下組織(肉と結合する部分)の3層から成り、鞣してレザーとして使うのは真皮層だ。この真皮層の表側が銀面(乳頭層)で、裏側が床面(または肉面)と呼ばれ、強度を必要とするレザースーツなどは銀面付きで使い、ファッション性を重視し、滑らかさを出すエナメルなどは銀面を削ったりして加工し着色して使う。

普通、銀面には鞣すと細かいシワが残り、これはシボと呼ばれ、あえてこのシボをレザーの表情として残すこともある。HYOD製ジャケット&パンツにもあるし、ROMAN BLACKの1種類のレザーもそうだ。ただし、美しいシボを持ったレザーは少なく希少だ。また、シボを後で加工する製法もあって、エンボスレザーなどがそうで、ヨーロッパ製品では広く使われている、HYOD製だとデニムのような風合いを演出してあるスマートレザーがそうだ。

一方鞣す過程で起毛させたレザーもある。床面(肉面)を起毛させたスエード、銀面を起毛させたヌバックなどが代表だろう。

また撥水加工も鞣しの課程で行われ、これにはフッ素樹脂やシリコン樹脂などが使われる。ROMAN BLACKのレザーはどちらもフッ素加工したウォータープルーフレザーだ)。

簡単に言ってしまえば鞣しは腐らないように塩漬けされた原皮を柔らかくして脂、毛、血などを除去し、皮を腐らないように加工し、脂を補給し、染色し、塗装して革にしていく加工だ。原皮からHYODが使う革=レザーになるまでには20工程以上が必要で、その間に革の特徴(しなやかさ、強度、艶や風合い、色など)も決まる。水、石灰、数々の薬品などが使われ、大型の専用機械もいろいろと必要になる。

一般的なクロム鞣しで原皮からレザー完成までの工程は簡単に追ってみよう。

原皮からHYODが使うレザーになるまでには、
20工程以上の作業が必要になる。

1. 水漬け(Soaking)

付着している血液や汚れを取り除き、塩漬けされた原皮に水分を補給して生皮の状態に戻す。鞣し工程では液のpH(水溶液の酸性~アルカリ性を示す。pH0=塩酸:酸性、pH7=中性、pH14=水酸化ナトリウム:アルカリ性)と温度は非常に重要で、厳密に管理される。ここではバクテリア対策で水温30℃未満、pH7~9を守る。抗菌剤も併用。パドルやドラムと呼ばれる大型機械を使う。処理時間は1〜2日。

2. 裏打ち(Fleshing)

特殊な機械(裏打機=フレッシングマシン)で、肉面(皮の裏側)の肉片や脂肪を取り除く。パドル、ドラムなどを使用。

3. 脱毛・石灰漬け(Liming & Un Hairing)

石灰を入れた水に漬けて、皮を膨潤させ、コラーゲン繊維をほぐし、手・脂肪・表皮層を分解し除去する。ドラム、パドル、脱毛機で行い、消石灰、ソーダなどを使う。処理時間48時間以上。重要なのは、この石灰漬けで出来あがる革の硬さが左右されることだ。

4. 分割(Splitting)

銀面側(表側)と肉側(床側)に、決められた厚さに分離。レザースーツやジャケットには銀面側を使うが、床側も工業用、医療用コラーゲン製品、食用に利用(鞣し後に分離する場合もある)。

5. 垢出し(Scudding、Beaming)

ここまでで除去しきれなかった毛根などを取り除く。

6. 再石灰漬け(Re Liming)

さらにコラーゲン繊維のからみをほぐす。ソフトな革やスウェード調革には不可欠。

7. 脱灰・酵解(DE Liming & Bating)

皮の中に残っている石灰を取り除く。ドラム、パドルを使う。

8. 浸酸(Picking or Pickle)

皮を酸性溶液に漬ける。これまでは工程で使った溶液はアルカリ性で、対して鞣し工程では使う薬品は酸性なので、酸性薬品を吸収しやすくするのが目的。きゅうりで作るピクルスは、酢(酸性)に漬けるが、皮は硫酸、ギ酸、塩酸に漬ける。どちらも塩を入れるが、これが肝心。塩がないと膨潤してしまう(きゅうりでも膨らんでしまう)。石灰漬けではアルカリ膨潤させるけれど、酸膨潤はまずい。処理時間は2~12時間。

9. クロム鞣し(Chrome Tanning)

三価クロム塩(クロム金属)を浸透させてコラーゲン繊維と結合させる。処理時間は15~20時間。植物タンニン鞣しではミモサ、タラ、ケブラッチョ、ガンビアなどの天然タンニンを使う。鞣し後の色は一般的にクロム鞣しが青っぽく、植物タンニン鞣しが使う植物によって白っぽかったり、赤っぽかったり、黄色っぽかったりする。

10. 水絞り(Squeezing)

革の中に余分な水分を機械で絞り出す。

11. シェービング(裏削り。Shaving)

機械で肉面(床面)を削り、一定の厚さに調整する。

12. 再鞣(さいじゅう。Re Tanning)

1回の鞣しでは不十分で、ここで再び鞣して目的にあった革の特性にする。剛性鞣剤、植物タンニンなどを使い分ける。

13. 中和(Neutralization)

革の中の酸をアルカリ性溶液で中和して、染料や加脂が浸透しやすくする。重炭酸ナトリウムやギ酸カルシウムなどを使う。

14. 染色・加脂(Dyeing & Oiling)

染料で目的の色に染める。そして精製された合成油脂を染み込ませて柔軟性や豊満性を与える。

15. 水絞り・伸ばし(Samming & Setting)

専用の機械で余分な水分を絞り出し、伸ばす。

16. 乾燥(Drying)

革の中の染料や加脂剤を固着させるために乾燥させる。自然乾燥や熱風乾燥。革の感触を決める重要な工程。

17. 味入れ(味付け・味取。Conditioning)

適度の水分を与えて、もみほぐす。

18. ステーキング(ヘラ掛け。Staking)

専用機でもみほぐして、柔軟性や弾力性を与える。

19. 張り乾燥(Toggling & Tacking)

板の上に釘で張ったり、網の上に張ったり平にして乾燥させる。

20. 縁断ち(えんだち。Trimming)

不必要な縁まわりを切る。

21. 銀むき(Buffing & Correcting)

スエードにする場合、銀面をサンドペーパーで削る。その後専用機で削りカスを落とす。

22. 塗装(Seasoning & Spraying)

顔料や染料などで銀面を塗装する。自動スプレーや手吹きなど。重ねて何度も繰り返す。これで色と艶が決まる。

23. 艶出し・アイロン・型押し(Glazing & Press)

機械やアイロンで表面を艶出しする。必要に応じて型押しやもみ作業を行う。

24. 計量(坪入れ。Measuring)

計量機で面積を計量。国内向けはデシ(DC cm²。10×10cm)、海外向けはスクエアフィート(SF)で表示。

25. 製品革(Leather)

完成。HYODにはこの状態で納品される。

1着に込められているもの。

こうして工程を追っていくと、ものすごく手間がかかっているのがわかると思う。HYODでは、タンナーに、こういうレザーが欲しい、色はコレで、風合いは……などとオーダーしていて、レザースーツならコレ、レザージャケットのこのタイプにはコレと、様々なレザーを注文し使い分けている。またタンナーも探究心が旺盛で、毎年新しいレザーを商品化してくる。レザーは本当に種類が多く、HYODでは優秀なタンナーの協力を得てROMAN BLACK専用レザーを作った。既存の流通しているレザーの場合でも数多くの中からねらいに合った何種類かを選んでテスト(耐光性や耐久性など)し、試作を作って、着て、走って、再度検討……となかなか納得のいくレザーウエアが完成するまでの道のりは長い。

そしてレザーというマテリアルは、知れば知るほど、使えば使うほどまだまだ可能性を秘めていることがわかるし、その魅力は増すばかりだ。間違いなく、将来も天然レザーはライディングウエアにとって欠くことが出来ないマテリアルであり続けるだろう。何と言っても人類が200万年も使い続けてきたのだから(もし牛などの動物を食さなくなったら話が変わるだろうけれど)。

タンナーから届いたレザーを裁断して縫う。ここからはHYODの仕事だ。レザースーツ(レーシングスーツ)と、ROMAN BLACKなどはレザー自体も製作工程も異なるけれど、レザーの本質を生かして人=ライダーのためのプロダクツに仕上げていることに変わりはない。浜松本社にある自社ファクトリー“Origin Works(オリジンワークス)”のクラフトマンたちがレザーに新たな命を吹き込んでいくのだ。

HYODのクラフトマンたちは経験値が高く、しかも情熱を持ってレザーを扱い縫製している。契約ライダーのレザースーツだと担当者はクセも熟知していてどんな要求をするのかがわかっているから、パターン製作段階から調整し、縫製でも注意を払う。ちょっとした数値の違いで、体形(トレーニングして筋肉量が増えたなど)やライディングスタイルの変化を察してしまう。ROMAN BLACKの場合では、着る人の顔を知らないけれどそのレザージャケットを選んでくれたことへの感謝と、これを着ることにより豊かな人生を送ってくれるように心を込めて縫っていくのだ。

正確なことを言えば、ハンドメイドなのでクラフトンマンが違えば公差の範囲内ではあるけれど出来も異なる。レザーにしても、工程を見ればわかる通り、化学繊維と違って牛も違うし、温度やpHを管理してはいるけれども素材は天然の物であるため、加工後はまったく同じにはならない。契約ライダーによっては担当するクラフトマンを専任にする場合もあるぐらいだ。さらにレザーを裁断する段階でも左右の腕の部分のシボの具合を同じになるようにしたりと現場での微調整は必要で、これらもクラフトマンの判断になる。

でも、そこがレザーのおもしろさでもあって、プロダクツになったときも、均一な大量生産品とは違った味や魅力になっているのだと思う。要するに原皮もレザーも世界に1枚だけで、出来あがったレザースーツやレザージャケットも1着しかない。だからこそ、鞣し加工のタンナーも、HYODのクラフトマンも、心を込めて仕上げるのだ。

HYODで使うレザーは自然からの大切な贈り物であり、食の後に残された貴重なマテリアルだ。HYODにとってレザーは心の一部であり、そのプロダクツを身に付けるライダーにとってレザーは身体の一部なのだと思う。

だから、あの袖を通し、ファスナーを上げたときの感覚を忘れない。今日か、明日か、このウィークエンドか、ライダーは忘れがたい時間をレザーとともに過ごす。

レザーはA Part of Human Heart
HYODの、レザーへの探求も、
ずっと続いていく。